終わった恋の忘れ方2
トントン
少し緊張した面持ちで扉を叩く。以前は勢い良く扉を開けて、老夫婦に対して「知らない」の一点張りだった。
ティファやエアリスは何かしらの反応をしていた様だが、その時の俺は気付く事すら出来なかった。
「扉は開いてるよ。どうぞ」
中から年老いた女性の声が聞こえる。
扉を開くと以前と同じ 二人の老夫婦がイスに腰掛けていた。
久しぶりに会ったザックスの両親はやはり少し年月が経ってるからだろうか。シワや白髪が目立ち、疲れが顔から滲み出ている。
「あ、あの・・・」
クラウドは第一声がどうしていいかわからず、挙動不審に辺りを見渡す。イメージトレーニングはしていたのに、いざ目の前にすると身体が竦んでこれ以上の声さえ出ない。
存分に辺りを見回した所でチラリと横壁に掛けてある写真が目に止まる。
「・・・」
気になったのはそこに写る人物、懐かしい黒髪が微笑んでいる。
胸が締め付けられる様に苦しい。
「おや・・・・いつぞやのソルジャーさんじゃないかい?」
老婆が目を細めてそう言った。
心拍数が瞬時に跳ね上がり、自分の身なりを確認する。あの頃と比べて格好も随分異なって、まるで喪服の様な黒装束を身に着けていると言うのに、何故わかったのだ。
しかも、あんな態度を取ったのに。
「そ、うです。あの時はすみません」
「なにいいんだよ。私達もね 息子を探すのに必死で」
ね?と顔を見合わせて、老夫婦は微笑む。
「覚えていたのはね。君が息子に少し似ていたからなんだ」
息子。
その言葉が出る度に二人の顔から自然に笑みが零れた。皺くちゃになった顔はクラウドを“誰か”と重ねて見ている様で、逆にクラウドにとっては冷や汗が頬を通り過ぎる事となる。
よく考えれば、最初に村を訪れたあの時。何度も何度も自分に対して ザックスの事を問い詰めたのか。その理由さえ この光景を見ていれば納得がいく。
まさか、ザックスの真似事によって、彼の一番大切にしている両親に対して傷を抉る形になっていたとは。
「君の立ち振舞い。雰囲気。見かけは全然違うのに・・・なんだか心に残ってね」
「そ、うですか」
無理して笑って、どうしようも無い苛立ちが襲ってきた。
「・・・で、君がまた尋ねてくれたと言う事は何かあると言う事かい?」
ゴクリ、と喉を過ぎる唾液が音を立てる。
多分辛い話になる。
俺にとっても。
あなた方にとっても。
「・・・」
一度口を噤んで、唇を噛締めた。だけど弱い心と罪悪感に押し流されそうになりながらも、決心してきたのは。
あの時見せたあんたのあの笑顔が。最後に振ってくれたあの「さよなら」の合図が。自分を恨んでいない、恨む訳が無いだろって聞えて。心の蟠りが少しずつ溶けていったから。
「そうです。その息子さんの事でお話が」
「・・・・・あんたザックスを」
「はい」
緊張の面持ちでゆっくりと頷いて。一つ一つの言葉に思いを乗せながら、話し出す。
彼等がザックスと、連絡が取れなくなった7年前。
始まりはニブルヘイムの魔胱炉事件。
全てはここから始まった。
*****
「立ち話もなんだから」
そう言って白髪混じりの老男は、クラウドの座る椅子を奥の部屋から引き摺り出した。覚束無い足取りだったので返ってこちらが持ち運ぶのに、と近寄るが 老婆によって止められる。
「来客なんて久しぶりなのよ」
だからこの人にやらせてあげて。
フフフと微笑みながらティーポットにお湯を注ぐ。鼻を刺激する紅茶の香りが部屋中に広がった。
差し出された椅子に重たい腰を落ち着かせる。
「どうぞ」
「・・・どうも」
手にしたティーカップはどう考えても男物で、もしかしたらアイツのか?なんて錯覚を起こす。
ここはザックスの思い出が強すぎるのだ。先程からこの家の至る所で痕跡を見つけられる。
壁に掛けてある写真も。奥の部屋からチラリ伺える、壁に掛けたままの制服も。そしてこのティーカップも。
全て、ザックスが田舎を飛び出た、あの時のままなのだろう。
そんな家中の雰囲気と歓迎してくれる二人に感謝するも この先の話はとても厳しい現実が待っている。
一つ大きく深呼吸をしながら、与えられた紅茶で咽を潤す。
心を落ち着かせた所で、先程の続きを探る様にポツリ、ポツリと話し出した。
ソルジャーと一般兵の頃、神羅ビルでの共同生活。
ニブルヘイムの魔胱炉事件。
英雄の苦悩、迷い、暴走。
傷つけられた体は、神羅屋敷で身体実験に掛けられる。
間一髪の脱走。
彼の精神力と違って、自分が精神崩壊して迷惑掛けて。
そして
「・・・・」
「・・・そしてどうしたんだい?」
押し黙る。
一連の事件を頭の中を整理しながら事細かに説明するだけでも精神力が削られて。最後の一言で同時に襲ってきたのは虚無感と罪悪感。
だってその先は。
あの日の雨の音が次第に鼓膜へと蘇り、弱虫だった幻が侵食し出す。
殺したのは誰。
目の前で殺られていても動かないのは何故。
精神力の弱さを理由にして、あの日の自分から逃げているだけだ。
「やめて、くれ・・・」
夢でも幻でも姿を見せてくれた彼が、最後に微笑んだ表情だけで救われた筈なのに。懺悔の気持ちがまた胸を焦がすのか。頭を横に強く振りながら、思い出と格闘する。
それでもクラウドの視線は下がり続け、自然に肩の力が抜けていった。
「・・・君」
「・・・・え?」
フッと顔を上げたら大粒の涙が頬を伝った。自分ではあの時解決したと思っていたのに、いざ彼との思い出を話した途端にこれだ。
心が。
感情が付いて行かない。
過剰反応し、涙を流すなんて、大の大人が見苦しい。
「君・・・名前は?」
「俺・・・ですか?」
いきなり名前を聞かれて驚きながら、涙に濡れる頬を右手で拭う。
「クラウド・ストライフです」
「クラウドさん・・・か。ありがとう」
そういって老人は優しく微笑んだ。
あぁこの笑顔。
何処となく彼に似ていてまた涙腺が緩む。
「あなたはザックスとどう言うお知り合いなの?」
聞かれるとは思っていたが、老女が尋ねたその問いに一瞬気が引けて迷ったのも事実。
しかし、ここに来る前に決めていた。胸を張って自慢できると。
「俺はザックスの恋人です」
「え・・・」
二人の動きがピタリと止まり、狭い室内になんともいえない空気が流れた。
これもわかっていた事だ。
もう迷わない。
クラウドはキョロキョロと辺りを見回して、以前来た時に見た引き出しを探した。丁度老夫婦が座っている後ろ、小さな棚の上にそれは置いてあった。
「手紙・・・最後の手紙ありますよね?あれに書いてあるガールフレンド。あれは俺です」
「な・・・」
そうあの時。
「俺あの手紙書いてる時、隣で一緒に笑ってました。本当は付き合っているのは男なのに両親に要らない心配させれないって」
「・・・」
「でも時期が来たら・・・、一緒にゴンガガへ行って両親に紹介したいって言ってくれて それで・・・」
――適わぬ約束になったのだけど
両手を力強く握って、唇を強く噛み締めた。
「彼は居なくなってしまったけれど、それでも俺はザックスを・・・」
スッと二人が立ち上がり、何も言わずに抱きしめられた。
ポロポロと留まる事無く流れ落ちる雫。もう涙腺は懐柔され、戻る事は無い。
温かい温もりは冷えきった俺自身の心を溶かしていく。
「忘れられない、んです」
ザックスの両親の肩で涙の粒を零しながら、擦れた声で呟いた。
忘れ様と何度願おうも、襲うのは罪悪感と絶対的な存在感。
まだ愛しているんだ。
誰よりもきっと。
「終わった恋に対して、無理に忘れ様としなくてもいいんだよ クラウドさん」
「ザックスを沢山幸せにしてくれてありがとうね」
あなたを見ればあの子がどれだけ幸せだったかが手に取る様にわかる。
その言葉を聞いたクラウドが老女の顔を、目を丸めながら見つめる。
居なくなった息子が残した置きみあげは、こんなに罪悪感に苛まれた俺だと言うのに。
「俺には、勿体無い、言葉、です」
その後、幸せな圧迫感に包まれながら、天を仰ぎ見る様に静かに瞳を閉じたのだった。
...END
<後書き>
2月のリョナタンの本に乗っけた奴が昨日ヒヨッコリ出てきて リメイクしてUPしてみました。
切なく切なく書けたらなって言うのが目標。
が、あえなく撃沈(*´ρ`)
今回もあたしの尊敬する小説書きさん(PCサイト様なんですが神!!)や、ハァハァリョナタンがやってる改行する度にあけるをやってみたらなんだか纏まった気がします。ワーショーイ!!
ほんと素敵な二人に早く追いつきたく頑張りたいと思います!!
さて、本題のこの作品ですが 終わった恋の忘れ方と言う題名とおり。忘れ方がわからなくて四苦八苦している時にクラウド君 ザックスの両親に会いに行こうと思い立ち向かった訳なんです。
大体時期的にはAC終わりで、ザックスバイバイが見れた後位でしょうか??
ザックスの帰りをずっと待っていた両親に伝える事が自分に出来る唯一の償いだと信じてくるんだけど 結局慰められちゃうんですが。
人付き合いが下手なクラウドでもやっぱりザックス両親には心をすこーし開いてて 最後にはブカブカの制服でも着させられるといい。
「あら、似合うじゃないの」
「いや、やっぱり大きいですね」
「・・・なんか生前の息子を見ている様で嬉しいわ」
的な。
やっぱりあたしはラブラブよりも切ないのが大好きだって話で終了(*´∀`*)
ありがとうございました!!!!
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